【技術・道具の基礎】ロープアクセスにおけるバックアップロープとロープの色について
ロープアクセス技術において、メインロープの他に作業者の墜落を止めるためのライフライン(バックアップロープ)を併用することは常識となっており、ロープアクセスの会社に入社した場合メインロープとバックアップロープの概念は真っ先に覚える知識となります。
現代のロープアクセスでは、ロープの併用(=ライフラインの設置)はリスク管理において最も重要な要素となります。
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ライフライン(バックアップロープ)の歴史
ライフラインの概念はロープ作業の黎明期から存在していたわけではなく、徐々に確立されていきました。
■1970年代:登山技術を応用した初期のロープアクセス
工業分野(特に建設・石油・通信分野)で、登山(クライミング)や洞窟探検(ケイビング)の技術を応用した高所作業が始まります。
この時代はまだ「メインロープ1本」で作業することが多く、ロープ破断やアンカー損傷への備えは限定的。
保険的にセカンドロープを設けることはあっても、常時ライフラインを使う習慣は未確立でした。
※クライミングの現場では、現在でも岩場でボルトを打ち込んだり交換したりする際、宙吊り用のダイナミックロープ1本だけで作業しています。
■1980年代:ヨーロッパでの産業ロープアクセス確立期
イギリスやフランスで、産業向けのロープアクセスが専門技術として発展。
重大事故(特に単一ロープの破断)などの発生を受け、安全に対する意識が急速に変化していた時代です。
そしてイギリスではロープアクセスに関する協会「 IRATA(Industrial Rope Access Trade Association)」が1980年代後半に設立されました。
IRATAでは、「2本の独立したロープ(メイン+ライフライン)」を必須とする安全基準を制定。
これが現在の国際標準の原型になります。
■1990年代:国際的な安全基準化
EN 795(1996年)など欧州規格でアンカー強度やライフラインの基準が整備。
IRATAの規格はイギリスから欧州内にまで広まり、
・作業者は「メインロープ(ワークロープ)」で作業
・「ライフライン(バックアップロープ)」にバックアップデバイス(モバイルフォールアレスター)を装着する
方式が標準化。
「Petzl ASAP」のような自動ロック式のバックアップデバイスが登場したことによって、実用性が飛躍的に向上しました。
■2000年代以降:世界標準化と国内法への影響
欧州(EN)、国際(ISO 22846)、IRATA、SPRAT(米国)などが共通認識として「デュアルロープシステム(メインロープとバックアップロープを併用する作業システム)」を採用。
日本でも2000年代以降、特に高所清掃・橋梁点検などのロープ作業で導入が進んでいきます。
労働安全衛生法では直接「デュアルロープシステム」を義務づけてはいませんが、リスクアセスメント上の標準安全措置として扱われています。
ロープの色について
世界最大の産業用ロープアクセス技術に関する協会であるIRATAにおいても、試験で使用するロープはメインロープとライフラインで異なるカラーのロープを使用することが求められています。
2025年時点では、使用するロープの色を指定するような国際的な規格やルールは当店が確認する限り存在せず、メインロープとライフライン(バックアップロープ)にどの色を選ぶかは作業者の判断に委ねられています。
基本的には、
・現場背景とのコントラストで目立つ色
・メインロープとライフラインで対になりやすい色
・自身もしくは組織で用途別に色のルールを決める
を基準にロープの色を選ぶのが良いでしょう。
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メインロープを暖色系、ライフラインを寒色系などざっくり分けるだけでも、ロープの買い替えタイミングなどで何種類もの異なる色のロープが混在しても、どちらがメインでどちらがバックアップかを感覚的に判断しやすくなります。