【技術・道具の基礎】ロープの外被の素材
ロープアクセス(ロープ高所作業)で使用されるセミスタティックロープの外被(外皮・シース)には、ナイロン(ポリアミド)もしくはポリエステルが採用されています。
ロープの外被に使われるナイロン(ポリアミド)とポリエステルの違いは、それぞれの素材が持つ特性によりロープの性能に影響を与えます。
クライミングで用いられるほとんどのダイナミックロープ(衝撃吸収性が求められるロープ)は、外被と芯(コア)の両方にナイロンが使われています。
一方、ロープアクセスで用いられるセミスタティックロープ(伸びが少ないロープ)や特殊なロープでは、ナイロンのみならずポリエステルが外被に使われることがあります。
素材の特徴
■ナイロンとポリエステルの大まかな比較

1. 伸びと衝撃吸収性
ナイロン: 伸度(伸び)が高く、瞬時に大きな力がかかった際にロープが伸びることでエネルギーを吸収し、クライマーや確保システムにかかる衝撃荷重を軽減します。これが、ナイロンがダイナミックロープの主要素材である最大の理由です。
ポリエステル: 伸度が低く、ロープを張った際のたわみが少ないためロープの登降効率に優れ、セミスタティックロープの外被として使用されます。
2. 水分と強度
ナイロン: 吸水性があり、水に濡れると強度が約15〜20%低下することがあります。そのため、ダイナミックロープ・セミスタティックロープでは【ドライ加工(撥水加工)】が施されているものが多く、これは外被のナイロン繊維に施されます。
ポリエステル: 疎水性が高く、水をほとんど吸収しないため、濡れても強度がほとんど変わりません。湿気の多い環境や水辺での使用に適しています。
3. 耐久性と耐候性
・耐摩耗・耐摩擦性:
ナイロンもポリエステルも高い耐摩耗性を持っていますが、一般的にナイロンの方が優れているとされることが多いです。なお、引っかかり摩耗にはポリエステルの方が有利とされています。
・耐候性/耐UV性
ポリエステルの方が紫外線(UV)に強く、屋外での長期使用による劣化が少ない傾向があります。ナイロンは紫外線に長時間晒されると黄変したり強度が低下する可能性があります。
クライミングロープの性能は、この外被と芯の素材の選択と、その編み方(カーンマントル構造)によって決まります。
ナイロンかポリエステルか
■雨が多く多湿の日本でもロープ作業でナイロン外被が選ばれる理由
日本は初夏から秋にかけては梅雨や台風に見舞われ、湿度も80~90%になることもあり、年間平均降水量約1700mmは世界の平均降水量約880mmの約2倍です。
そのような環境では、水を吸収しやすいナイロンよりも吸水しにくいポリエステルの方が外被の素材として向いているような気もします。
しかしながら、実際のロープ作業の現場ではナイロン外被のセミスタティックロープの方が多く採用されています。
ロープの外被にナイロンが選ばれ続けるのは、高湿度環境でのデメリットを上回るメリットがあるからです。
1. 耐摩耗性
ロープアクセスは、ロープが構造物の角(エッジ)や、ローププロテクター、下降器など作業で使用する器具と連続して擦れる環境で行われます。
ナイロンはポリエステルと比較して、この「滑らかで連続的な擦れ」に対する耐久性が高い傾向があり、ロープの芯(コア)を保護し、ロープの寿命と作業安全性を確保する上で外被の素材は重要視されます。
2. しなやかさと柔軟性
ナイロンはしなやかで柔軟性があり、ノットが作りやすく、結んだ後も解きやすいという特性があります。
ロープアクセスでは、頻繁に器具の取り付け・取り外しや結び目の作成を行うため、操作性の良さは作業効率に直結します。
3. ドライ加工技術の進化
ナイロンの最大の弱点である吸水性は、近年、各メーカーのドライ加工技術によって大幅に改善されています。
外被に強力な撥水処理を施すことで、水の吸収を最小限に抑え、濡れた際でも強度低下を抑えることができます。
日本の高湿度環境でも、ドライ加工済みのナイロンロープであれば、その性能を維持しやすくなります。
そもそも、完全な雨天時には作業が中止になる場合が殆どです。
■ポリエステル外被が活きる環境
1. 水気の多い現場
ポリエステルは吸水しにくい特性を持ちます。ナイロン製の吸水するロープは重くなるうえに強度が低下するため、水気の多い場所での使用には向きません。
ポリエステル外被のロープは、キャニオニングのような水気の多い場所で有効です。
※流されている人を救助するようなウォーターレスキューでは、水に浮くポリプロピレン素材の外被を用いたロープが採用されます。
2.ツリーケア(ツリークライミング,特殊伐採)
木の表面(樹皮)はざらついていて、時にロープの表皮を痛めるほど鋭利で固くなっているものもあります。
このような環境でロープを使用する場合、引っかかりによる摩擦に強いポリエステル外被が向きます。
また、ヒッチクライマーシステムのように繊維(ロープ)と繊維(コード)がこすれ合う場面も多いため、ポリエステルの融点の高さが有利になります。
3.登山道の常設ロープ
ポリエステル素材の特性である「紫外線耐性」「水を吸収しにくい」は、登山道の常設ロープのような野外で長期間使用される用途に向きます。
■結論
窓ビル清掃などの一般的なロープ作業ではナイロン外被が、キャニオニングなど水濡れが頻繁にある環境や、エッジ(鋭利な突起物)との接触があるツリーケアのような現場ではポリエステル外被が向いています。
ご自身の作業環境に合わせて適切なロープをお選びください。