【技術・製品情報】ロープ

高所作業、主にロープアクセスで使用されるロープは、外被(カーン)と内芯(マントル)で構成された『カーンマントル構造』が主流です。
欧米メーカーのロープと接続するメカニカルデバイス(下降器やジャンドアッセンダー、モバイルフォールアレスターなど)は、カーンマントル構造のロープと組み合わせて使用することを前提に作られています。
― ロープの種類 ―
■セミスタティックロープ
主に高所作業におけるロープアクセスで使用することを想定したロープで、伸び率が低く、登下降やレスキューシーンでの作業効率に優れています。
■ダイナミックロープ
おもにスポーツクライミングでの使用を想定したロープで、伸び率が高くユーザーが墜落した際の衝撃をある程度吸収します。
ロープが伸びるほど器具を使用したロープの登下降の効率は悪くなることから、ロープアクセスでは基本的に使用されません。また下降器など高所作業用のメカニカルデバイスの多くは、セミスタティックロープと組み合わせて使用することを前提として製造・検査されています。
なお、ダイナミックロープは高所作業ではカウズテールを含むフォールアレスト用ランヤードとして用いられます。
また、作業者がクライミング技術を用いて現場までアプローチする用途を想定して製造された、プロフェッショナル向けのダイナミックロープも存在します。
■リギング向けロープ
特殊伐採や船舶の係留などに使用する、径が太く強度の高いロープです。
身体保護用ロープの規格テストは行っておらず、身体保護目的での使用はできません。
― ロープの構造 ―
■撚りロープ
従来からある撚りロープで、三つ撚りロープが一番メジャーです。外被、内芯といったものはなく、編んだロープを縒って1本のロープに仕上げます。
日本の現場では現在でも使用されていますが、欧米では人間が体重を預ける用途では既に使用されていません。
※理由は下記【3キャリアー(3ストランド)】に記述
■パラレルコア
繊維を撚(よ)って作られた芯が何本も平行に束ねられている「パラレルコア(並行/内芯)」と、繊維を編んだ「外被」で作られています。
高所作業でのロープアクセスで使用される海外製のセミスタティックロープや、スポーツクライミングで使用されるダイナミックロープはパラレルコア構造です。
外被と内芯の比率は製品によって千差万別ですが、いずれのロープも外被はほぼカバーとしての役割で荷重の殆どを内芯が支えているのが特徴です。
建物のエッジなどによりロープの外被が傷つきやすい現場では、ロープガードやローププロテクターと併用して作業システムを構築します。
なお、パラレルコアのロープの末端は基本的にはスプライスが出来ず、縫製処理でアイを作ります。
■ダブルブレイド
内芯も外被も編み込みで出来たロープです。
内芯と外被の比率はおおむね5:5で、外被と内芯それぞれで半分ずつ荷重を受け止めます。
パラレルコア構造のセミスタティックと比べるとしなやかに曲がるものが多く、樹上を縦横無尽に動くツリーケア(造園・アーボリスト)の作業において長く重宝されてきました。
なお、最近ではツリーケア用のメカニカルデバイスが発達し、メカニカルデバイスを用いてロープ登降を行うことが多くなったため、使用されるロープは曲がりにくく効率の良いセミスタティックロープも選ばれています。
ダブルブレイドは末端にスプライス加工ができます。
― 編み込みによる違い ―
代表的な編み込み数ごとの違いを解説します。数字が大きくなるほど 編み込みが細かくなります。
■3キャリアー(3ストランド)
いわゆる三つ打ちロープ。従来からある撚りロープで、外被、内芯といったものはなく、編んだロープを縒って1本のロープに仕上げます。Z撚り(左撚り)とS撚り(右撚り)があります。
日本のメーカーでは現在でも身体を支える作業用ロープとしても販売されていますが、欧州メーカーでは身体保持用のロープは販売されていません。
また欧州メーカーのメカニカルデバイスは、3ストランドの撚りロープは原則使用できません。
理由としては、大きな荷重を受けた際にロープのねじれの力によって器具が正常な機能を発揮できなかったり、ロープの隙間に器具が挟まってしまったり、その逆で器具にロープが挟まってしまうといったリスクがあるためです。
■12キャリアー(12ストランド)
ツリーケアにおいてポータラップやブロックの設定に使用するウーピールーピーで採用されます。非常に柔軟に曲げられるのが特徴です。
■16キャリアー(16ストランド)
外被と内芯によって構成されたロープのうち、外被が16キャリアーで編みこまれたロープが該当します。
キャリアーシース(外被)のヤーンを太くし厚みがあるため、ダメージがコアに到着するまでの耐久性を重視しています。
■32キャリアー(32ストランド)
ローストレッチロープの基本的な外被の構成です。
欧米メーカー製でメジャーなセミスタティックロープ「ペツル アクシス11mm」などは32キャリアーです。
■48キャリアー(48ストランド)
ダイナミックロープや、ダイナミックロープの柔軟性を求めるローストレッチロープに用いられることの多い外被の構成です。
結索性の良さと柔らかさを提供します。
― ロープのアイ(ループ)加工 ―
先に記載の通り、ロープの構造によって末端ループの作り方は異なります。
外被も内芯も編み込みであるダブルブレイドロープは、編んでループを作るスプライシング(アイスプライス)が行えます。スプライシングは知識があれば作業者自身が編み込んで作成可能です。
外被が編み込みで内被が平行に束ねられている一般的なカーンマントルロープはスプライシングが行えないため、末端を折り返して縫製しアイ(ループ)を作ります(縫製処理)。
個人の環境では縫製処理は難しく、メーカーが販売している末端縫製処理済みの既製品を購入するか、受注発注で注文するしかありません。
― 海外メーカー製ロープのスペック ―
海外メーカー製ロープのホームページや取扱説明書にはスペックが記載されています。ここでは代表的なスペックを記載します。
※メーカーによって表記が若干異なります。
※メーカーによっては一部の情報のみ公開している場合があります。
■Diameter
>ロープの直径。
■Knotability
>ロープの結索性(結びやすさ)。シンプルノットを作成し重りを吊るしてノットの内径を測定します。
ノットの内径/ロープの直径で算出され、セミスタティックロープの規格EN1891では1.2以下となることが要求されます。
なお、数値が低いほど柔らかくノットを作りやすくなります。
■Sheath proportion
>ロープ全体に占める外被の比率。比率が高いほど擦り傷などによる外被の破断がしにくくなります。
■Weight per meter(g/m)
>メートル当たりの重さ
■Minimum breaking strength(kN)
>最小の破断強度。「MBS」の略称で表示されることもあります。
■Minimum breaking strength in figure-of-eight knot / Strength tied with figure-eight knot(kN)
>エイトノット作成時の破断強度
■Strength with sewn termination(kN)
>末端アイ加工をした場合の破断強度
■Percentage of sheath(%)
>ロープに占める外被の割合。
■Number of Falls
>落下係数1での耐墜落回数を表します。既定の負荷(タイプA:100㎏、タイプB:80㎏)にて、5回以上の墜落に耐える必要があります。
■Impact Force(kN)
>衝撃荷重。既定の重量にて墜落(FF0.3)時の衝撃力を表します。6kN未満でなければならず、また数値が小さいほど墜落時に作業者にかかる衝撃が少なくなります。
■Static elongation
>静荷重(動いていない状態)での伸び率。ロープに50㎏荷重した長さを基準とし、150㎏荷重をした長さとの比率を表します。(セミ)スタティックロープは5% 未満である必要があります。
■Sheath slippage
>使用前後のロープの内芯と外皮のずれを表す数値。数値が低い程、耐久性に優れます。20mmが目安。
■Schrinkage H²O(%)
>水濡れによるロープの収縮率。
■Material
>ロープに使用されている素材
■Certification
>認証(EN規格やANSI規格)
■Rope Type
>ロープのタイプ。セミスタティックAorB、ダイナミックなど。
※9mm径などの細いセミスタティックロープはTypeBです。TypeBは強度が低く、墜落などの強い衝撃かかかる可能性のある一般的なロープ作業では推奨されません。レスキューでの下降など緊急用途向けです。