【技術・道具の基礎】コネクターを掛けておく場所

工事現場などの足場のある場所で作業者が墜落した際に安全に止めるためのショックアブソーバー付きランヤード(1丁掛け・2丁掛けランヤード)。
高所での墜落のリスクのある場所では1丁掛け・2丁掛けランヤードを常時水平ライフラインなどに接続して使用しますが、安全な場所や地上ではこのランヤードは使用しないため、通常、肩部のコネクターラック(パーキングループ)に掛けて置くよう指導されます。

さまざまなメーカーのフルハーネスには両肩部にコネクターラックが付いていますが、コネクターラックが付いていないモデルもあり、作業者によっては代用として腰部のギアラックにランヤードのフックを掛けているケースがしばしば見受けられます。
また、メーカーの取扱説明書でもギアラックにランヤードのフックを掛けることの是非について一切記載がないものも多数あります。
ランヤードのフック型コネクターをギアラックに掛けて良いか?
取扱説明書でのギアラックの耐荷重はおおむね10~20kgと、肩部のコネクターラックの耐荷重(1.5~10kg)より少し上なだけで、作業者の体重分の荷重がギアラックに掛かった場合、ギアラックは破断します。
そのため、ギアラックにフックを掛けていても、意図せずランヤードが障害物に引っかかり作業者が危険な状況になっても、強い力が加わればギアラックが破断するのてコネクターラックに掛けておくのと同様なのではないか、と考えられます。
では、ランヤードのコネクターをギアラックに掛ける行為は、高所作業技術の視点で安全といえるのでしょうか?
結論から申し上げると、
『ショックアブソーバー付きランヤードとは別の墜落制止システムを使用しており墜落時に干渉しない場合や、近くに稼働中の機械や墜落リスクのない場所であればギアラックに掛けても安全』
『ギアラックに掛けたランヤードが障害物などに引っかかって作業者がケガをするリスクがある環境では使用は推奨できない』
『取扱説明書にフックをコネクターラックに掛けておくよう明記されている場合はギアラックには掛けない』
となります。
以下に内容を列挙します。
■ケース①:他の墜落制止システムを使用しており、ランヤードのフックはギアラックに掛ける行為 → 【 △ 】
上はカンプ(C.A.M.P)社の本国のカタログに掲載されている画像の抜粋です。
画像内では、作業者はハシゴに設置されている墜落制止装置付きのワイヤーケーブルと胸部アタッチメントポイントで接続され、ショックアブソーバー付きランヤードは背部アタッチメントポイントに取り付けられてうえで先端フックを腰のギアラックに掛けています。
この状況では、作業者は墜落制止装置によって墜落対策を行っており、また背部アタッチメントポイントに接続しているショックアブソーバー付きランヤードは作業者の墜落に干渉しない(墜落制止装置の正常な作動を阻害しない)ため安全であると判断できます。
なお、ロープアクセス(ロープ作業)では、ライフライン(バックアップロープ)にモバイルフォールアレスターという墜落制止装置を取り付け宙吊り作業をしますが、周囲に障害物があるような現場で上図のようにギアラックにランヤードを掛けていると、墜落時にランヤードが障害物に引っかかるリスクが上がり、モバイルフォールアレスターの制止機能が上手く作動しなくなる危険性があるため注意が必要です。
■ケース②:地上など墜落リスクのない場所でランヤードのフックをギアラックに掛ける行為 → 【 △ 】
・ランヤードが背中または胸部のアタッチメントポイントから腰部まで垂れさがることにより、移動時などにランヤードが障害物に引っかかるリスクが増えます。
・ギアラックはギアを携行する目的であるためカタログ値よりも耐荷重が強められている可能性が高く、ランヤードが機械に巻き込まれたりした際に、ギアラックがなかなか破断せず作業者が機械と接触しケガを負うリスクがあります。
・ランヤードが障害物に引っかかったり機械に巻き込まれたりした際に運良くギアラックが破断したとしても、そのギアラックは以後使用不可能になります。
※肩部のコネクターラック(パーキングループ)はモデルによっては再利用可能ができたり別売りパーツに交換できたりしますが、ギアラックは破断すると元の状態に戻せません。
以上のことから、落下の危険がなく、また付近に稼働する機械がなく作業者の安全が確保されている状況ではギアラックにフックを掛けていても問題ありませんが、工場など付近に稼働する機械があり機械にランヤードが巻き込まれるリスクがある場合は、ギアラックにフックを掛けるのは望ましくありません。
■ケース③:2丁掛けランヤードの一方のコネクターを使用中に、もう一方をギアラックに掛ける行為 → 【 ✕ 】

・2丁掛けランヤードのうち一方をギアラックに掛けた場合、本来想定された衝撃吸収方向や展開スペースが確保できなくなります。そして墜落が発生した場合、アブソーバーの引き裂かれる長さが『ギアラックに掛けたランヤードの長さ』に制限されてしまい、正常に機能しない可能性があります。ギアラックの強度は上記の通り10~20kgが一般的ですが、あくまでカタログ値であり、アブソーバーが作動し衝撃を吸収している状態ではギアラックが破断しない可能性もあります。
・また、墜落時にランヤードが身体を横方向に引っ張り、体がひねられる形で落下する危険があります。正しい墜落制止姿勢が保てず、首や脊髄を傷める原因となります。
■取扱説明書にコネクターラック(パーキングループ)にフックを掛けるよう明記されていた場合 → 【 ✕ 】
メーカーの取扱説明書に、ショックアブソーバー付きランヤードを未使用時はフックをコネクターラックに掛けておくよう記載がある場合には、ギアラックにフックは掛けず、メーカーの指示に従い肩部のコネクターラックにフックを掛けてください。
まとめ
上記の通り、安全が担保される状況下に限られますがフックをギアラックに掛けておくのは問題ないといえます。
とはいえ、メーカーによってはフックをギアラックに掛ける行為を推奨していない場合もありますので、ショックアブソーバー付きランヤードをハーネスに取り付ける場合は、出来るかぎりコネクターラック(パーキングループ)が付いているハーネス、もしくは後付けできるハーネスを選ぶのが無難です。
※欧州メーカーのペツル社では、ショックアブソーバー付きランヤードのフックは未使用時は肩部のパーキングループに掛けておくよう取扱説明書に明記されています。
※U字吊りで使用するサイトアタッチメントポイントは強固な造りで作業者の墜落程度の衝撃では破断しないため、墜落時に作業者に更に大きなダメージを与える恐れがあり、こちらは絶対にお止め下さい。