【技術・製品情報】ブランコ

【技術・製品情報】ブランコ

 

 

 

ロープ作業において荷重のかかる太ももの負担を軽減し、楽な姿勢で快適な作業環境を実現するブランコ(ベンチシート)。
ビルの窓ガラス清掃のような長時間宙づり状態で作業する方に重宝されています。 

 

現在当店で取り扱っている海外メーカー製のブランコは、製品マニュアル(取扱説明書)においてブランコとハーネスを直接または小型のリギングプレートを用いて間接的に接続し、万が一作業者がブランコから滑り落ちてもメインロープと接続している下降器によって墜落が止まるようなシステムで運用するように記載されています。

 

 

 

しかし中には、このようなブランコをハーネスと接続する方法は採用せず、ブランコと下降器を接続しそこに作業者が座るだけの状態でロープ作業をされる方もいらっしゃるようです。

 

フルハーネスがない時代からのやり方のままで作業をされている、あるいは、ハーネスと下降器(およびメインロープ)が離れていたほうが作業がしやすい、などの理由でブランコとハーネスを直接接続しないのだと思われますが、この運用方法の場合、『メインロープの作業システムにおいて作業者の安全確保がされていない状態』のため、万が一作業者がブランコから滑り落ちてしまうと、メインロープでは作業者の墜落は止められず、大きな墜落が発生してしまいます。

 

もちろん、現代のメインロープ・バックアップロープを併用した作業システムであれば、いざ墜落が発生した際にはバックアップロープ上のモバイルフォールアレスターが機能し墜落を止めるため致命的なダメージは免れます(飽くまでバックアップシステムが正しく機能した場合の話です)。

 

ただ、現在の欧州でのロープアクセスの考え方では『メインロープ上の作業システムにおいて安全確保されている』のが大前提で、欧州メーカーのブランコのマニュアルにおいても、ブランコと下降器を接続し、ハーネスとは接続しない運用方法は危険である旨表記されているものもあります。

 

 

では日本ではどうかというと、平成27(2015)年4月の厚生労働省労働基準局安全衛生部によってまとめられたブランコ作業に関する報告書『ブランコ作業における安全対策検討会報告書』を確認する限り、作業に係る危険の防止として「ライフライン(バックアップロープ)と安全帯(フルハーネス)を接続する」ことについての記載はありますが、メインロープとフルハーネスを接続することについての記載はなく、欧州と安全に対する考え方に違いがあることが分かります。

 

ブランコの販売にしても、欧州メーカーはブランコは「ハーネス用のアクセサリ―」として扱っていますが、日本のメーカーは「ハーネスとの接続も可能ではあるものの基本的にブランコとして独立した製品」として扱っています。

 

これは、日本において長らく「ロープアクセス」と「ブランコ作業」が別物として扱われ、その感覚が今現在でも続いていることが原因だと考えられます。
ロープアクセスは登り返しや別のロープへの乗り移りを想定しており、メインロープの作業システムと作業者のハーネスの接続は必須ですが、窓ガラス清掃や外壁清掃のような上から下へ降りながら作業を進める仕事では、メインロープと作業者のハーネスの接続は(作業の目的としては)必須ではなく、それによってブランコに座るだけの作業システムから移行されないかと推測されます。

 

上記でも触れましたが、欧州ではブランコは『ハーネスに取り付けるアクセサリ』という立ち位置であり、メインロープとの接続は「ブランコ」でなく「ブランコを取り付けたハーネス」となっています。それを踏まえ、ブランコ作業もロープアクセスの一部という認識です。

 

「これまでも大丈夫だった」「この方がやりやすい」といった意識を自身で変えるのは難しく、ビルメンテナンス、外装清掃業界などの協会が本腰を入れない限り日本においてはもうしばらくは『メインロープとハーネス』ではなく『メインロープとブランコ』を接続して作業される方が一定数いらっしゃると思います。

 

ただ、作業の安全性を考えればやはりバックアップとメインロープの両方に作業者が接続され両方のロープによって安全確保が行われる方が、万が一の深刻な事故を減らすことに繋がることは間違いありません。安全意識の変化が進みより安全なロープアクセスシステムが普及していくことを切に祈ります。