【基本装備(欧州)】風力発電

環境省が掲げる「2050年カーボンニュートラルの実現」に向けた取り組みとして、CO2を排出しない再生可能エネルギー(再エネ)の推進に注力されています。
太陽光発電、地熱発電、バイオマスなどのクリーンエネルギーが年々発電量を拡大していますが、風力発電についても、2020年に取りまとめられた「養生ウ風力産業ビジョン」によって、2030年までに10GW、2040年までに30~45GWを目標に全国各地に風力発電施設が次々と建設されています。
風力発電は発電塔(タワー)に取り付けられたブレードが回転することにより発電しますが、風の強い自然環境下で稼働し続けるため設備にダメージが蓄積しやすく、定期的にタワー内部やナセル、ブレードの点検・補修が必要になります。
本ページでは、タワー内部でのラダー(ハシゴ)昇降からブレードの点検・補修におけるロープアクセス作業まで、欧州の基本装備を紹介します。
※作業によっては更に追加で装備が必要となります。飽くまで基本装備の紹介となりますことご了承ください。未経験者の方は社内の経験者や高所作業訓練講座を開催している企業や団体のもとでトレーニングを行い、高所作業技術と道具に対する知見を獲得してください。

基本装備
■ヘルメット
飛来物や墜落時に作業者の頭部を保護します。
欧州のプロフェッショナル用ヘルメットは基本的にEN397(産業用ヘルメット)とEN12492(マウンテニアリング用ヘルメット)の2種類のうちいずれかの認証を取得しています。
EN397(産業用ヘルメット)とEN1492(マウンテニアリング用ヘルメット)の一番の違いは顎ひも強度で、EN397のヘルメットは顎ひもが障害物に引っかかった際の首吊りを防ぐため15~25kgの力で顎ひもが外れるのに対し、EN12492は簡単に顎ひもが外れてしまわないよう50kg以上の力が必要です。
ハシゴ登高や屋外でのロープ作業では墜落の危険性を伴うことから、EN12492認証のヘルメットが推奨となります。
■ハーネス
墜落時に作業者の身体を保持する個人保護用具です。
タワー内のハシゴ登高のみを目的とする場合は、胸部または背部にアタッチメントポイントのある「フォールアレスト用ハーネス」が安価でおススメです。
後述の2丁掛けランヤードを併用したい場合は、肩部にランヤードフックを留めておけるラック(パーキングループ)が標準でついているモデルが良いでしょう。
墜落時の保護のみならず、電柱作業のようにU字吊りや1本吊りでの作業が発生する場合は、腹部やサイドにアタッチメントポイントのある「フォールアレスト・ワークポジショニング兼用ハーネス」を用います。
シンギングロック社のフルハーネス「ウィンドマスター」は、腹部に金属製アタッチメントポイントとは別に、はしごの墜落制止用器具と接続するための繊維製の「ラダーコネクションポイント」が設けられています。
作業者が墜落すると、「ラダーコネクションポイント」の縫製が裂け、胸部までせりあがります。これにより墜落した作業者は頭部が胴体より上の状態で制止します(腹部アタッチメントで吊られると頭部が胴体より下になる可能性があり、頭に過剰に血が回り危険です)。
また、一般的なフォールアレストハーネスでは胸部アタッチメントポイントでハシゴ上の墜落制止装置(垂直ライフライン)と接続するため上体をハシゴから離しにくいですが、「ウィンドマスター」は腹部で接続するため上体をハシゴから大きく離すことができます。
金属製腹部アタッチメントポイントは下降器などとの接続に対応するほか、胸部にチェストアッセンダーも取り付け可能で、屋外でのロープ作業(ブレードの点検・補修)まで対応することができます。
「シンギングロック ウィンドマスター」は、風力発電の点検で発生する様々な作業に最適なハーネスです。

■ブランコ(ベンチシート)
長時間のロープ作業は太もも裏に荷重が掛かり続けるため、足を中心に疲労が溜まりやすくなります。
ブランコ(ベンチシート)は座った状態での作業を実現し、長時間の宙吊りでも快適になります。
またブランコの多くはギアラックも完備されていますので、より多くの荷物を作業地点に携行することができます。
■2丁掛けランヤード
ハシゴに墜落制止装置が付いていない場合に作業者の安全を確保する用途で使用します。
またナセル上部を移動する作業者が墜落しないよう支点と接続する目的でも使用します。
ランヤードはフィックスロープを使った長さが固定のものと、ウェビングを使った伸縮式のものがあります。長さ固定のものはある程度体重を預けてU字吊りのように使え、伸縮式のものはフックを掛けている場所から身体を離せる利点があります。作業の用途に応じて長さ固定式か伸縮式かをお選びいただくとよいでしょう。
■墜落制止装置
レールまたはケーブルに墜落制止装置があらかじめ取り付けられていない場合、別途墜落制止装置を用意する必要があります。
レールに取り付けるスライダーは、レールの製造メーカーが販売しているスライダーのみ適応する場合がほとんどです。
※レール用のスライダー、ケーブル用のランナーともに当店の取り扱いは現時点でありません。
ロープ作業を行う場合
■ロープ
主にメインロープ(親綱)、バックアップロープ(ライフライン)で使用します。
また地上からの荷揚げ用ロープを別に用意する場合もあります。
欧州の装備ではφ10.5mmからφ11mmのロープが主流で、下降器やモバイルフォールアレスターなども主流のロープ径に合わせて設計されています。
ロープのメーカー規格品は通常50m、100mとキリの良い長さで販売されていますが、「カンプ イリジウム 10.5mm」「カンプ イリジウム 11mm」は仕入先にてご希望の長さに裁断可能です(切り売り、10m単位)。
■モバイルフォールアレスター
ライフラインに接続し、メインロープ上の作業者が万一墜落した際に安全に制止させます。
「ペツル アサップ」「アサップロック」(当店取扱無し)はジャミングローラー式で、必ずショックアブソーバーとの併用しなければなりません。
当店取扱の「カンプ ゴブリン」や「シンギングロック ロッカー」はカムロック式で、器具とロープを直接接続できます。
※ロープとの距離を離したい場合はランヤードやストラップを併用します。
■ディッセンダー(下降器)
ロープの下降、および宙吊り作業時に作業者を同じ位置に留めておくブレーキとして使用します。
クライミングなどのマウンテニアリングでも使用されるエイト環と、ロープを機械的に挟み込んで自動でブレーキを掛けるメカニカルデバイスがありますが、近年では作業の安全性を重視しメカニカルデバイスを用いるのが主流です。
メカニカルデバイスはブレーキングレバーを操作して下降の速度を調整します。
なお誤って強くレバーを操作し急降下してしまった際に、即座に自動でブレーキがかかるアンチパニック機構(パニック防止機構)を備えたモデルもあり、そちらの方がより安全に作業を行えます。
「カンプ ウィザード」はアンチパニック機構を搭載、またハーネスに下降器を取り付けたままロープセットが可能なモデルでありながら、軽量コンパクトを実現したカンプ社の次世代下降器のスタンダードモデルです。
■ハンドアッセンダー(登高器)
フットテープと組み合わせて、ロープを登り返す際に使用します。落下防止のためハンドアッセンダーとハーネスはランヤードやスリングなどで接続が必要です。
※1~2m程度の短い登り返しであれば下降器とハンドアッセンダーでも対応できますが、登高の効率が悪いため大きな登り返しが必要な場合はハンドアッセンダーに加えチェストアッセンダー付きフルハーネスを使用されることを推奨します。
■アンカー用スリング
メインロープやバックアップロープの支点構築用に利用します。
また何本ものスリングを連結させ、ロープ作業中に長くしたスリングをブレードに巻き付けて仮設アンカーとして利用することもできます。
■ワークポジショニングランヤード
ロープ作業中にブレードに仮設アンカーを設けない場合に、ブレードにランヤードを巻き付けU字吊りでブレードから作業者の身体が離れないようにします。
大きい発電塔ではブレードの最大周囲が10mを超えるものもあるため、「カンプ ドゥルイドランヤード」のようなワークポジショニングランヤードが有効になります。
なおブレードに一人でランヤードを巻き付けることは困難なため、反対側にいるもう1名の作業者に対して先端側を投げ、受け取ってもらったら反対側から投げ返してもらいハーネスと接続しU字吊り環境を完成させます。